仁礼信兵衛が逝く その一


ネタ切れからの新シリーズ。
今日から完全にフィクションの歴史巨編小説を始めます。
酔っ払って好き勝手書いて行きますので 、
あれこれ思い出して(?)、
感情が高ぶって(??)しまうと、
時代考証が滅茶苦茶になることを、
ご承知した上で拝読願います。




時は幕末の世、維新の風雲近く、
所は江戸ほど近くの小藩、
桜不煮藩でのこと。




この藩の禄を食むこと十五年近い、
不惑に手が届く小禄藩士
日々矢郡奉行所、奉行並、
仁礼信兵衛(にれいのぶべえ)。
仲間内では「のぶべえ」ではなく、
「のんべえ」と呼ばれていた。




蘭学に妄信的な三代目に藩主が変わり、
おおらかだった藩風といったものが、
まったく様変わりしてしまったこの国に、
すっかり嫌気がさしているものの、
妻子を抱え、脱藩する勇気もなく、
剣術や蘭学といった取り柄もなく、
ただ悶々と平凡とした日々を過ごす信兵衛だ。




さて葉月のある日のこと。
信兵衛の勤める日々矢郡奉行所の、
奉行・小二倉猟虎ノ介(こにくららっこのすけ)は、
公儀の目を逃れて、
密命でエゲレスに遊学中。




痔瘻を患う信兵衛が、
痛い尻を騙し騙し、
奉行所に暢気を装い出勤すると、
この奉行所の中頭を兼ねる、
次席家老、阿々南田陀唐佐(ああなんだだからさ)から、
直接こんな書状が届いたのだった。

本日、上様にお目見え戴き、
そちへ伝えたきことこれありとの候、
午の刻一番に登城すべし。

「お殿様から、いったい何の話だろうか。」
仕事を怠けて寺社に参拝したことが露見したのか。





恐る恐る登城した信兵衛。
本丸天守閣に通され、
「仁礼信兵衛、表を上げい」の声に、
頭を上げると、
藩主、筆頭家老、次席家老の三役が揃い踏み・・・。





「仁礼信兵衛よ。」




「ははっ。」




「日々矢郡奉行所で長く空席だった奉行並を命ずる。」




筆頭家老からこんな意外な言葉を受け、
すっかり驚く信兵衛だった・・・。




「奉行並」といえば、
対外的にも、実質的にも、
その一つ上の「副奉行」を、
堂々と名乗る役職だ。
同じ年にこの国に勤め始めた、
同輩にもまだその役についた者はいない。




「有難き幸せを戴き、恐悦至極に存じます。」
と、型通りのお礼をする信兵衛。




「して、私めの禄高は、いったい、いかほどに・・・。」




「なにっ、驕ったか、信兵衛めっ。」
「おぬしの禄は先月改め、一年更改としたばかりであろう。」
「どの口がほざくか、この口か。」
阿々南田が激昂し、
仁礼を何度も蹴りつけます。



亀のように、身を丸くし、
「・・・この一年、給金はそのまま、
責任だけ重くなるということか。」
・・・と思いつめる信兵衛。





阿々南田家老から足蹴により、
口の中をしたたかに切り、
流れ出る血の味を噛みしめながら、
「脱藩」の文字が浮かび、消えない、
信兵衛の脳裏であった。



つづく

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