本当はこの話をするつもりはなかったんです。
でも、いろいろな心霊スポットを扱うサイトを覗くと、
アホな若者達が、面白半分の興味本位で、
幽霊が出るという場所で騒いでいるようなので、
若き日の私たちと同じ過ちを犯すことがないように、
老婆心でここに書きます。
私が大学生の頃の話です。
同じアパートの悪友四人組。
夜な夜な酒を酌み交わす他の楽しみは、
肝試しと称した心霊スポット探検でした。
関東近郊の有名な心霊スポットには、
ほぼ全部行ったと思います。
でも一度だって、幽霊らしき影や、
心霊写真なんて撮れたことはありません。
「幽霊なんているはずない。」
なんて、思っていましたよ。
ほんと。
それはそれ以前にも、
何度か行ったことのあった、
アパートからほど近い、
悲劇の落城の伝説がある、
戦国時代の山城跡でのことです。
暑い真夏の深夜のこと。
そこで会った同じような肝試しグループと合流し、
バカのように大騒ぎして山を登る大集団の私たち。
「森のくまさん」の替え歌で、「落武者」の唄を歌う、
そこであった悲劇を愚弄するかのようなバカ集団。
暑い夏の夜に、自分たちの吐く息が、
白いことに気付いたのは、
一番臆病な我等四人組の一人でした。
暑いのに、吐く息が白いんです。
それに気付いたチキンな彼は、
やがて息苦しさを訴えはじめました。
首が苦しいと泣くんです。
次第に、吐き気をもよおす者や、
肩が重いと、うったえる者が増えだしました。
我々の周りの草を踏み分けるような集団の足音が、
私たちを囲います。草が不自然に揺れるんです。
「ぎゃーぁっっっ。」
集団の一人が悲鳴をあげ、
脱兎の如く逃げ走りました。
おそらく何かが見えたのでしょう。
それを合図に全員がパニック状態。
悲鳴をあげながら山を下ります。
私は息苦しさをうったえる彼と、
一番後ろに山を下りました。
恐る恐る、何度が振り向くと、
白い着物を着た老婆のような影が、
ひたひたと私たちのあとに付いて来ています。
振り向くと、すーっと消えてしまうんですが、
他にも多数の人影が、
我々を追ってくるようでした。
どうにかこうにか山を下り、
アパートに辿りつき、
腑抜けのように、各部屋に解散。
布団をかぶり、
気絶するかのように寝付きました。
・・・するとほどなく、
部屋の扉が開きました。
普段は鍵なんてかけないもんですから、
さっきの怖さから抜けられない、
仲間の一人が尋ねてきたんだと思い、
起きようとおもったら、起きられない。
・・・金縛りです。
ピタ ・ ピタ ・ ピタ・・・、
骨と皮のような足の音がします。
あ゛、これ、さっきの老婆だって、
すぐに思いました。
金縛りだけど、
目は明けられそうな感じ。
でも怖くて明けられません。
私の枕元で座り込むかのような気配。
しわしわの手が私の顔を撫で廻します。
冷たく乾いた小さな手でした。
ぎゅっと私の首を一度ぎゅっと絞めると、
その人の気配は、また、
ヒタ・ヒタと、扉のほうに戻りました。
ここで、私の金縛りは急に解けました。
解けると同時に、一番臆病な彼が、
半泣きで、私の部屋に飛び込んできました。
彼も私と同じ、訪問者を、
まったく同じように迎えたそうです。
後で聞くと、他の二人にも、
ほぼ同じ訪問者が来たそうです。
これで済めばたいしたことじゃなんですが、
この後、その四人とその家族や親類に、
原因不明の病気や、
信じられないような事故等の、
不幸が続きました。
四人のうちの一人の母親が、
とある新興宗教を信じていたようなんですが、
その幹部に言われたそうです。
「息子さん達は、多くの霊を怒らせた」って・・・。
結局、なんだかよくわからないまま、
その宗教の祈祷師(?)が霊を鎮めてくれたそうで、
その後は、なにもありません。
今ではほんと反省していますよ。
怒られて当然ですよ。
面白半分で悲劇のあった場所で肝試しなんて、
やっちゃダメだよ。あんちゃんたち。
実際、本当に幽霊がいるかどうかは分かりませんが、
人間の強い感情の「念」は、
電波のようにそこに残るんじゃないかなぁ。
それが「怒り」「悲しみ」、
「苦しみ」「痛み」なら、
よく強く、長く・・・。
それを受信しちゃうと脳の中で、
幽霊のようになって、目に見えてしまうのかも。
いえいえ、それだけじゃないんでしょう・・・。
ともかく、静かに眠る死者を愚弄するようなことは、
絶対やっちゃダメですよ。
はいっ。