「無私の日本人」(文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)



読書の貯金ネタは、
まだまだ沢山あるんですが、
こちらの本を読んで、
久しぶりに感涙するほどに、
感動したもので、
感想の薄れぬうちにとどめます。



穀田屋十三郎、
中根東里、
大田垣蓮月


ほぼ無名のまま、
江戸時代の市井に埋もれていた三人を、
歴史家・磯田道史さんが、
古文書を丹念に紐解き、
紹介する人物評伝の三編。
この三名の偉人は、
自らが歴史に足跡を残すことすらを嫌がり、
無私を貫いたまま、
己の信じる道を貫き、
事をなします。



資料の少ない題材なだけに、
一人の作者の評価を、
そのまま鵜呑みにするのは危険ですが、
日本人がもっと愛する、
美しき日本人の姿がここにあります。


       

中根東里「壁書」


一 父母をいとをしみ、兄弟にむつまじきは、身を修むる本なり。本かたければ末しげし。
一 老を敬ひ、幼をいつくしみ、有紱を貴び、無能をあはれむ。
一 忠臣は國あることを知りて、家あることを知らず。孝子は親あることを知りて、己れあることを知らず。
一 祖先の祭を愼み、子孫の繁を忽にせず。
一 辭はゆるくして、誠ならむことを願ひ、行は敏くして、厚からんことを欲す。
一 善を見ては法とし、不善を見てはいましめとす。
一 怒に難を思へば、悔にいたらず。欲に義を思へば、恥をとらず。
一 儉より奢に移ることは易く、奢より儉に入ることはかたし。
一 樵父は山にとり、漁父は海に浮ぶ。人各々其業を樂むべし。
一 人の過をいはず。我功にほこらず。
一 病は口より入るもの多し。禍は口より出づるもの少からず。
一 施して報を願はず。受けて恩を忘れず。
一 他山の石は玉をみがくべし。憂患のことは心をみがくべし。
一 水を飲んで樂むものあり。錦を衣て憂ふるものあり。
一 出る月を待つべし。散る花を追ふ勿れ。
一 忠言は耳にさからひ、良藥は口に苦し。



所収の「穀田屋十三郎」を原作として、
中村義洋さんがメガホンを取り、
阿部サダヲさん主演で、
殿、利息でござる!」として、
映画化され、五月に公開されるとか。
ちょっと観てみたい気もします。