makoto-jin-rei 版「桃太郎」その二

makoto-jin-rei 版「桃太郎」 → その一





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 桃太郎




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 老婆が出刃庖丁で女の骸の子宮を切り裂き、冷たくなった母胎から血塗れた姿で掬い上げられた赤ん坊。おそらく母は都の貴族の出身で、父も身分の高い武士であったのだろう。血筋なのか家柄によるものなのか、骨太で体格も大きく泣き声も堂々している。将来は間違いなく偉丈夫となるだろう。子供のいなかった老夫妻は、この子に桃太郎という名前を付けて我が子のように慈しみ大事に育てた。
 桃太郎は成長するにつれ身体も大きく力も強くなった。しかしこの時代に中食を食べる習慣はなく、朝夕の食事は一汁一菜にもならぬほど粗末なものだ。桃太郎自身、自分がこれだけ大きく強くなれたのは、毎日食事の後に食べさせられる血生臭い団子にあることは薄々気づいていたが、はたしてこれが何なのかは今まで養父母には聞けずにいた。実はこの団子は死んだ落武者や山賊に殺された屍を切り刻み、翁が肝臓・胆嚢を抜き取ったものを干して丸めたものなのだが、桃太郎には想像もつくまい。
 「お前は桃から生まれた桃太郎なのだよ」
 父母からは、幼い頃からそう言われ続けて育ったが、無論そんな話は信じてはいない。ただ自分の容姿、体型をみても自分がこの老夫妻の実子ではないだろうということは、物心がついてすぐから、いつもの感じていたことだ。
 桃太郎はさらに順調に成長し、元服を迎える頃には屈強な山賊を相手にしても、喧嘩や相撲で敵うものがいなくなった。ついには山賊の頭となり、翁が落武者狩りで集めた鎧兜・具足から一番上等な一式を身につけて一気に勢力を広めこの地方を席巻する一大野武士集団を形成するに至る。また近くで戦があれば金銭で大名に雇われることもあり、合戦に馳走しては敵方の兜首をいくつもあげて褒美を受けるなど徐々に名声を高めてゆく。刀や槍を抜いて向かい合っても誰にも負けることがなくなり、その旗印にはついに「日本一」を自称するようになるのである。
 
 野武士集団の首魁ともなると、子分への給金分配に頭を悩ませるようになった桃太郎。戦国の世とはいえそれは城持ちの大名と同様にその支配地を拡大することは容易なことではない。方々から集まった山賊の子分の中には、元は海賊の手下だったという変わり種もいる。
 「ここから川を下って海に出で、浜から北の明国へ向かって何日か船を漕いで行きますと、赤鬼、青鬼が棲んでいる島があります。浜に大きな城を建て方々から掠め取った財宝を守っているという噂です」
 欧州は大航海時代葡萄牙や西班牙が競って亜細亜や新大陸に進出していた頃である。小島に座礁した巨大な帆船が城に見え、ここに生き残って暮らしていた外国人を鬼と見違えたのだ。日焼けをした白色人種が赤鬼に、肌の黒い奴隷が青鬼に見えたのであろう。ちなみに日本では古来より黒色を青と呼ぶ。
 桃太郎はこの話を聞き、この鬼の島であれば近隣の大名の支配下でもなく、掠め取った財宝の全てを己の支配下に分配できると考えた。しかし大勢の野武士集団を引き連れて、支配地外の山を下り、慣れない海を渡ること、船を用意するとは簡単ではない。まずは犬のような忠誠を示す支配下の部下とはいえ、かなり長旅になるこの計画を話して古株の重鎮の了承を得ねばならない。また山を下りて海に出る為には猿のように山を知り尽くした忍びの者を、海を渡るにはまさか雉のように空を飛ぶ訳にはいかないので水師・船師も雇い大量の舟も必要だ。
 それらを味方にする為の先付の給金をどうするか、桃太郎は考えた。
「父上、桃太郎は、山を下り海を渡り、鬼の棲むという島に出て、鬼を退治して鬼の財宝を持ち帰って来ようと思っております」 
「ほう、それは勇ましいことだ。相談とはなんだ」
「父上・母上が作り、市に出して売っている団子薬。今後この管理を全て桃太郎に任せてくだされ」
 桃太郎はつい最近になってこの養父母の団子が、死んだ落武者や我ら山賊が殺した屍から肝臓・胆嚢を抜き取って作られていることを知った。以前は山賊の頭の目を盗むように細々と営んでいた内職のようなものであったが、桃太郎が頭となった今では大手を振って屍を集めて大量に生産している。食事が質素なこの時代、貧血や脚気の者も多くまた滋養強壮が労咳にも効くと信じられていたので、この団子薬はいつも市で飛ぶように売れた。桃太郎はこの販売を敢えて抑えて価値を高め、部下への給金、忍びや水師への雇入に利用しようと考えたのだ。
 翁が団子薬の販売を取りやめると、桃太郎の計算通りに薬の需要は高まった。桃太郎はこの安定的な配給をチラつかせて、山賊の古株の重鎮、忍び、水師の頭を懐柔した。彼らの家族にも労咳で苦しむものも多い。今後もこの団子薬を優先的に供給することと鬼から奪い取る予定の財宝の取分比率を取り決めて合議となり、ついに鬼退治作戦を決行するに至ったのだ。


つづく      ・・・かな?