「蒼天見ゆ」(角川文庫)「敵討」(新潮文庫) 〜臼井六郎を描いた二作について〜


→ 「春雷」(祥伝社文庫)
→ 「陽炎の門」(講談社文庫)
→ 「潮鳴り」(祥伝社文庫)
→ 「おもかげ橋」(幻冬舎時代小説文庫)
→ 「霖雨」(PHP文芸文庫)
→ 「銀漢の賦」(文春文庫)
→ 「螢草」(双葉文庫)
→ 「春風伝」(新潮文庫)
→ 「秋月記」(角川文庫)
→ 「無双の花」(文春文庫)
→ 「川あかり」(双葉文庫)
→ 「いのちなりけり」「花や散るらん」(文春文庫)
→ 「柚子の花咲く」(朝日文庫)
→ 「蜩ノ記」(祥伝社文庫)
→ 「葉室麟」関連の記事


→ 「桜田門外ノ変」【上・下】(新潮文庫)
→ 「死顔」(新潮文庫)
→ 「長英逃亡」【上・下】(新潮文庫)
→ 「彰義隊」(新潮文庫)
→ 「プリズムの満月」(新潮文庫)
→ 「破獄」(新潮文庫)
→ 「史実を歩く」(文春文庫)
→ 「零式戦闘機」(新潮文庫)「戦艦武蔵」(新潮文庫)
→  「吉村昭の平家物語」(講談社文庫)
→ 第二次吉村昭プチマイブーム
→ 「吉村昭」関連の記事








昨年末のこと、
大好きな作家の一人、
葉室麟さんの訃報に、
呆然としたことを思い出します。
年始、当然書店の店頭は、
"追悼特集"となりまして、
いっそのこと、
未読の単行本を全て購入して、
読破しようかとも思いましたが、
今後、新作がけして出ない、
葉室さんの死をどうしても受け入れられず、
なぜか未読の作品を読むことも辛くて、
やはり文庫化を待つ心境に至りました。




蒼天見ゆ (角川文庫)

蒼天見ゆ (角川文庫)





と、いう複雑な心境で、
年末に文庫化された、
こちらを最近になり、
ようやく読みました。
読み始めてすぐに、
これは他の著者の作品で、
過去に読んだことのある、
歴史上実在の人物の、
伝記であると気づきました。




敵討 (新潮文庫)

敵討 (新潮文庫)





あの吉村昭氏が描いた、
「敵討」の中の、
「最後の仇討」の、
「臼井六郎」です。
そもそも歴史上重要な、
意味を持つ事柄のみを、
歴史小説として書く吉村氏にとって、
この本は個人と個人の問題である、
敵討を描いた珍しい作品。
実はこの本の二編には、
武士の歴史の終焉を意味する、
深い時代背景があるのです。
ちなみに表題作の「敵討」は、
水野忠邦鳥居耀蔵による、
幕末の天保の改革の裏で起きた、
とある仇討ちを、
政争と社会情勢の変遷と共に、
克明に描いた作品。


→ 臼井六郎 - Wikipedia




明治六年(1873)の太政官布告
「仇討禁止令」発令後に、
日本史上最後の仇討ちをしたとされる、
秋月藩の士族、臼井六郎。
吉村昭氏の小説は、
当時の詳細な政局のみならず、
当事者の書簡や第三者の日記など、
徹底的に史実を調査した、
淡々とした世界観が持ち味ですが、
葉室麟氏の描く臼井六郎は、
自問自答を繰り返す悩み多き生き様。
続けざまに二作品を読み直すと、
仇討を遂げる前、遂げた後の臼井の心情を、
より深く想像することが出来て、
とても感慨深い感想が湧きます。
これはとても新鮮でした。


ならば、時おり、青空を眺めろ。
われらは何事もなしておらぬのに、空は青々と美しい。
時に曇り、雷雨ともなるが、いずれ青空がが戻ってくる。
それを信じれば何があろうとも悔いることはない。
いずれ、われらの頭上には
かくのごとき蒼天が広がるのだ。