仁礼信兵衛が逝く → その一
恥ずかしい病気!? その → 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二
ここ桜不煮藩では月に一度、
各奉行所が順番で、
藩主や家老、
大目付や他の奉行・副奉行へと、
日頃の成果を発表する、
「御前会議」が行われる。
この年の葉月は、
日々矢郡奉行所の番であった。
奉行である小二倉猟虎ノ介が不在である為、
藩主の前に並ぶのは、
筆頭副奉行、愚山雲々斉(ぐっさんうんうんさい)、
次席副奉行、消瀬羅世良池太(けせらせらいけた)
そしてこの度、
奉行並頭を就任した、仁礼信兵衛だ。
何故か、仁礼が三人の中心に座らされ、
藩主や他の聴衆の視線を集める位置にあった。
痔瘻の発作の痛みが頂点に達していた信兵衛。
腫瘍は大きく膨らみ、
弾ける寸前だ。
鎮痛剤を本来の二倍の量を服用し、
仁礼は会議に臨んだ。
進行は、愚山が取り仕切る。
大目付の若芽禿魚露ノ新(わかめはげぎょろのしん)
の、助言という名の「横槍」の通り、
先月の目標未達の説明から発表を始めた。
「えぇーいっ愚山、やめぃっ、やめい。」
藩主が突然恫喝する。
「何をくとくどと言い訳めいたことを、
ぶつぶつ話しておるのじゃ。
おぬしらは猟虎ノ介がおらねば烏合の衆か。
わしは良い点、悪い点、
これからどうするのか、
それだけが聞きたいのじゃ。
すぐにやり直せぃっ。」
急遽、日々矢奉行所一同が集まり相談を重ね、
良い点、悪い点を各三つに絞り、
仕切り直し、再び発表が始まった。
良い点、悪い点の発表の後は、
今後の展開であり、
仁礼信兵衛が発表する番である。
ここは勢いに乗って、
大きな声で気合を入れ、
藩主や他の聴衆に、
質問させる隙を与えてはならない。
「えーっ、当奉行所におきましては・・・」
発表はうまく進行している。
藩主が何度もうなづき、
笑顔も少しずつ見え始めた。
後、少しで発表が終わるその時だった。
プシュー〜。
痔瘻の疼痛が嘘のようにひいて行く。
気合を入れすぎて、
腫瘍が弾けたのだ。
畳は真っ赤に血に染まった。
「これにて失礼致します。」
会議を中座して、
厠にむかう信兵衛。
袴や褌も鮮血に染まっていた。
藩主の御前を血で穢し、
会議を中座した罪は、
通常であれば切腹にも値するが、
今回その罪は問われることはなかった。
しかしこの伝説は、
ここ桜不煮藩で、
「笑い話」として、
長く後世に語り継がれることとなる。(多分。)
つづく